自己破産|生活保護費徴収処分取消請求事件

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判

1 請求の趣旨
(1)札幌市北区保健福祉部長が原告に対して平成17年8月31日付けでした生活保護法78条に基づいて285万円を徴収する旨の処分は,これを取り消す。
(2)訴訟費用は,被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨

第2 事案の概要等

1 事案の概要

本件は,生活保護受給者であった原告(平成13年1月15日から保護開始。
平成17年12月1日に保護廃止。)が,札幌市北区保健福祉部長(以下「北区保健福祉部長」という。)から,不正に生活保護費を受給したことを理由に,平成17年8月31日付けで生活保護法78条に基づく285万円(357万9000円から返納金収入認定済みの72万9000円を控除した額)を徴収する旨の決定処分(以下「本件処分」という。)を受けたことにつき,
@借入金を収入に当たるとすることはできないし,
A借入金を収入とみなすことが可能であっても,それを申告しなかったことをもって「不実の申請その他不正な手段」とはいえず,また,
B収入認定の対象となった借入金は全て支払等により原告の手元には残っておらず,原告は身体障害者等級1級の認定を受け生活費の捻出すらままならない状態であり,他に同様のケースでは保護費の徴収を行っていないにもかかわらず,殊更原告のみ保護費を徴収することは裁量権の逸脱があるとして,本件処分の取消しを求めた事案である。

2 関係法令等

(1)生活保護法
ア生活保護法4条1項
生活保護法4条1項は,生活保護法による保護(以下「保護」という。)について,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるとし,保護の補足性を規定する。
イ生活保護法8条
生活保護法8条1項は,保護の基準及び程度について,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとすると規定する。
そして,同条2項は,保護の基準について,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これをこえないものでなければならないと規定する。
ウ生活保護法61条
生活保護法61条は,現に保護を受けている者(以下「被保護者」という。)は,収入,支出その他生計の状況について変動があったとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならないと規定する。
エ生活保護法78条
生活保護法78条は,不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受けさせた者があるときは,保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は,その費用の全部又は一部を,その者から徴収することができると規定する。
オ生活保護法85条
生活保護法85条は,不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受けさせた者は,3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する(ただし,刑法(明治40年法律第45号)に正条があるときは,刑法による。)と規定する。
(2)保健福祉部長への事務委任
札幌市長は,生活保護法19条4項の委任規定を受けた札幌市区保健福祉部長事務委任規則により,生活保護法24条ないし28条,30条ないし37条,48条4項,62条,63条,76条1項,77条2項,78条,80条及び81条の規定により市が実施する各事務について,札幌市内の各区の保健福祉部長に委任している。

3 前提となる事実(争いのない事実並びに各項末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)当事者
原告(昭和▲年▲月生まれの女性)は,北海道から,身体障害者等級1級の認定を受けている者である。(甲5)
(2)事実経過
ア原告は,北区保健福祉部長に対し,平成13年1月15日,生活保護法7条に基づき保護の開始の申請をした。
これに対し,北区保健福祉部長は,同月30日,生活保護法24条に基づき,同月15日にさかのぼって保護を開始した。
イ札幌地方裁判所は,原告に対し,平成15年4月9日,破産法(平成16年法律75号による廃止前。)126条1項に基づき破産の宣告を行い,同年6月27日,免責の決定をした。(甲3,4)
ウ北区保健福祉部長は,原告に対し,平成13年7月4日から平成14年まで借金を繰り返し,その収入を申告しなかったことを理由に,平成17年8月31日付けで生活保護法78条に基づき285万円の徴収金(借入金と同額の357万9000円から返納金収入認定済みの72万9000円を控除した額)を徴収する旨の決定処分をした(本件処分)。(甲1)
エ北区保健福祉部長は,平成17年12月1日をもって原告の上記保護を廃止した。(甲2)
(3)原告に対する生活保護支給額
北区保健福祉部長は,原告に対し,別紙2記載のとおりの保護(合計544万3151円)を支給した。

4 争点

@ 原告の生活保護受給中の借入金等の内容及び金額
A 原告の借入金等は収入認定の対象となるか。
B 原告が借入金等を申告しなかったことが,生活保護法78条の「不実の申請その他不正な手段」に当たるか。
C 本件処分には,裁量権の逸脱,濫用があるか。

5 争点に対する当事者の主張

(1)争点@(生活保護受給中の借入金等の内容及び金額)について
(被告の主張)
ア原告は,平成13年1月15日以降,別紙1「借入れ等一覧表」記載のとおり,借入れ等の信用供与を繰り返し受け,その合計額は,少なくとも357万9000円となる。
イなお,別紙1の番号1の平成13年1月の株式会社A(以下「A」という。)からの子供服の購入については,平成15年10月10日,当時の原告の担当であったケースワーカーは,原告に対し,原告の提出した債権者一覧表(乙1)記載の借入金等の1つ1つにつき生活保護受給中のものであるか否か確認したところ,原告自身,上記子供服購入に係る10万円のクレジット利用について,生活保護受給中のものであることを申し立てており,同子供服購入に係るクレジット利用は生活保護受給中のものであることが認められる。
(原告の主張)
別紙1「借入れ等一覧表」記載の借入れ等のうち,A及び株式会社B(以下「B」という)以外の借入れについては,その借入日及び借入金額とも認める。
(2)争点A(借入金等の収入認定)について
(被告の主張)
生活保護法4条1項及び2項は,生活保護制度が自己責任の原則に対する補足的な役割を担うという補足性の原理を明らかにしたものであり,同法8条は同原理を確認的に規定したものである。
同原理の下では,保護を受けるためには各自が持っている能力に応じて最大限の努力をすることが先決であり,そのような努力をしてもなお最低限度の生活を営むことができない場合にはじめて保護が行われることになる。
したがって,同法4条1項の「資産」及び同法8条1項の「金銭又は物品」は,あらゆる財産的価値を有するものを意味し,被保護者が入手した金品は,借入れ又はクレジット利用によるものであったとしても,上記「資産」ないし「金銭又は物品」に該当し,保護費から控除されるべき収入認定の対象となる。
(原告の主張)
借入金は,将来その返還をしなければならないものであるから,生活保護法4条1項にいう「資産」ないし同法8条1項にいう「金銭」に該当しないものと解すべきであり,社会通念上も借入金が「資産」であるとは理解できない。
借入金をもって同法8条1項の「金銭」に当たるとするならば,同法4条1項の「その利用し得るあらゆるもの」に「他から金銭の借入れをする能力」も含むことになり,金銭の借入れをする能力があるときには,金銭の借入れをした後でなければ,生活保護を受けられなくなるという不合理な結果となる。
「生活保護のしおり」には,借入金が「収入」に当たることを明記しておらず,同法61条にいう「収入」に借入金が含まれるとの解釈は,一般人の常識を超える恣意的な解釈であるといわざるを得ない。
また,別紙1「借入れ等一覧表」記載の借入れ等のうち,A及びBの分については,借入れではなくクレジット利用による立替金である。
(3)争点B( 不実の「申請その他不正な手段」の該当性)について
(被告の主張)
アCケースワーカーは,原告に対する保護の開始決定がなされ,原告が保護開始決定月に係る保護費についての小切手を受領するために札幌市北区役所へ来庁した際,原告に対して生活保護のしおり(乙5)を交付し,同しおりの「こんなときは,かならず届け出てください」の項目の中の「その他の臨時収入」の項目において,借入れをしてはならないこと,借入れは収入に当たること及び借入れをした場合には必ず届け出なければならないことを説明しており,原告もそのことを十分理解していた。
イそして,生活保護法78条の「不実の申請その他不正な手段」は,積極的に虚構の事実を構成することはもちろん,消極的に真実を隠匿することも含まれるとされるところ,原告は,借入金等が収入認定されることを認識しながら借入れ等の事実を申告せず,借入れ等の存在が発覚した後も,ケースワーカーから何度も指導されたにもかかわらず,借入金等についての挙証書類を提出しようとしなかった。
ウ原告の上記行為は,借入れ等の事実を隠匿しようとするものであり,原告が,「不実の申請その他不正な手段」により保護を受けたものであることは明らかである。
(原告の主張)
原告が,借入金が申告すべき収入に当たること,クレジットを利用して物品を購入したときは申告しなければならないことを認識するに至ったのは,免責決定を受けた平成15年6月27日より後である。
平成14年2月以前には,原告は,ケースワーカーからそのような指導は受けていないので,これらの申告をしなければならないとの認識はなかった。
したがって,原告には,借入金等について申告義務があるとの認識はなかったのであるから,原告がこれらの申告をしなかったことは「不実の申請その他不正な手段」には該当しない。
(4)争点C(裁量権の逸脱,濫用)について
(原告の主張)
原告が本件処分を受ける原因となった借入金等については,平成15年6月27日,免責決定を受けているが,借入金は,支払等に使用して手元には全く残っていなかった。
また,原告は,身体障害者等級1級の認定を受けており,稼働することが全く不可能であるところ,唯一の収入である障害者年金だけでは,最低限度の生活費すら捻出できない状況にある。
にもかかわらず,北区保健福祉部長は,原告が最低限度の生活ができない状況であることを知りながら,他にも同様のケースで借入金等相当額の保護費の徴収をしていないことが少なくないのに,殊更原告から借入金等相当額の保護費を徴収しようとして本件処分をしたものである。
したがって,本件処分は,原告が最低限度の生活すらできなくなることをもたらすものであり,著しい裁量権の逸脱,濫用がある。
(被告の主張)
被告は,生活保護の受給中に借入れ等が判明した場合,原則として,生活保護法78条に基づく費用徴収処分を行うか収入認定をして保護の程度に反映させる取扱いをしており,原告に対する本件処分もこのような取扱いにしたがったものである。
また,同条の費用徴収処分は,都道府県又は市町村の長が,費用を支弁した立場において,主として財政支出の適正の見地から行われるものであり,いわば損害追徴としての性格を有するから,同処分は,相手方の資力に関わりなくなされるべきものである。
したがって,本件処分に裁量の逸脱,濫用はない。

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第3 争点についての判断

1 争点@(借入金等の内容及び金額)について
(1)別紙1「借入れ等一覧表」記載の借入れ等のうち,平成13年7月4日から平成14年2月までの間の借入れについては,当事者間に争いがない。
(2)アまた,証拠(乙1,9の1,11の3,14,原告本人)によれば,原告は,生活保護受給中(平成13年1月15日から平成17年12月1日まで)に,Aよりクレジットを利用して10万円の子供服を,Bよりクレジットを利用して27万9000円のネックレスをそれぞれ購入したことが認められる。
イなお,原告は,Aから子供服を購入したのは,生活保護を受給する以前であると述べている。
確かに,乙1号証の「債権者一覧表」の記載によれば,上記子供服購入の契約日は平成13年1月となっているところ,原告に対する生活保護の開始日は同月15日(保護開始決定は同月30日)であることからするならば,上記子供服の購入が,保護受給以前であった可能性も考え得るところである。
しかしながら,原告の保護開始決定に先立ち,平成13年1月17日に実施された実態調査において,原告は,その時点で存在する負債の状況については,株式会社D及び株式会社Eに対する債務を申告しているが,Aからの子供服購入に係る債務については申告していないこと(乙14 ,原告の担当であった) Fケースワーカーは,平成15年10月10日,原告自身が作成,提出した債権者一覧表(乙1)を原告に示して,どれが保護受給中の借入れ等であるか1つ1つ確認し,保護受給中のものについてはピンクのマーカーを引いていったところ(乙11の3),上記Aからの購入品についても,ピンクのマーカーが引かれていること,他方,上記物品の購入時期について原告の記憶は必ずしも明確ではないことなどに照らすならば,原告の上記供述はにわかに信用することはできず,Aからの子供服の購入時期は,平成13年1月17日以降の生活保護受給中であったことが認められるというべきである。
(3)以上によれば,原告は,保護受給中に別紙1「借入れ等一覧表」記載のとおり借入れ等をし,その金額は,少なくとも合計357万9000円となるものと認められる。
2 争点A(借入金等の収入認定)について
(1)生活保護法による保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行われるものであり,最低限度の生活需要を満たすのに十分であって,かつ,これを超えないものでなければならない。
したがって,生活保護法4条1項にいう「その利用し得る資産,能力その他あらゆるもの」及び同法8条1項にいう「その者の金銭又は物品」とは,被保護者が,その最低限度の生活を維持するために活用することができる一切の財産的価値を有するものを含むと解される。
(2)アそして,生活保護法は,「その利用し得る資産,能力その他あらゆるもの」及び「その者の金銭又は物品」について特に限定をしておらず,将来返済が予定されている借入金についても,当該借入れによって,被保護者の最低限度の生活を維持するために活用可能な資産は増加するのであるから,保護受給中に被保護者が借入れをした場合,これを原則として収入認定の対象とすべきである。
原告は,借入金をもって同法8条1項の「金銭」に当たるとするならば,同法4条1項の「その利用し得るあらゆるもの」に「他から金銭の借入れをする能力」も含むことになり,金銭の借入れをする能力があるときには,金銭の借入れをした後でなければ,生活保護を受けられなくなるという不合理な結果となると主張する。
しかしながら,被保護者が,保護受給中に借入れをした場合,それが将来返済を予定しているものであっても,被保護者が活用可能な資産は増加していることは明らかであり,これを収入認定の対象とすることは不合理とはいえないし,また,このことが,原告の主張するように,金銭の借入れをする能力があるときには,当然に金銭の借入れをした後でなければ生活保護を受けられないという結果となるものでもない。
むしろ,保護開始決定に際し,多額の借入金を取得し,その最低限度の生活を維持するのに必要な資産以上のものを有している者に対し,取得した当該借入金を一切考慮せずに保護開始の要否を判断したり,保護受給中に多額の借入れをし,その最低限度の生活を維持するのに必要な資産以上のものを有するに至った者に対し,当該借入金を収入として一切考慮しないことになれば,保護の補足性の観点からすれば,かえって不合理な結果となるというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イまた,クレジットを利用した購入物品についても,将来,立替金の弁済が予定されているとはいえ,借入金同様,被保護者が活用可能な資産が増加することに変わりはなく,他方,上記物品を一切収入と認めないのであれば,前記アと同様の不合理な結果となることは明らかであるから,これらを収入認定の対象とすべきではないとの原告の主張は採用できない。
ウもっとも,上記のように補足性の原則を貫徹し,生活保護世帯に対する金銭給付等のすべてを収入として認定することは,生活保護法の目的である自立助長の観点から,あるいは社会通念上適当でない場合も生じ得るところである。
証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば生活保護行政の実務においては,上記のような点を考慮し,補足性の原則について一定の例外が設けられ,判断の統一性,被保護者の公平の観点から,特定の金銭について収入として認定しない場合についての統一的な基準として,「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知)(以下「次官通知」という。)及び「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通知)(以下「局長通知」という。)により,収入として認定する場合の具体的指針や収入として認定しない一定の公的扶助や貸付金等を定めていること,収入として認定しない貸付金については,次官通知第7の3の(3)のウにおいて,「他法,他施策等により貸し付けられる資金のうち当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」と定め,これを受けた局長通知第7の2の(3)においては,貸付けを受けるについて保護の実施機関の事前の承認があること等を要件として,収入認定をしない貸付資金として,事業の開始又は継続,就労及び技能修得のための貸付資金,一定範囲の就学資金,医療費又は介護費貸付金,結婚資金,国又は地方公共団体により,若しくはその委託事業として行われる一定範囲の貸付資金を掲げていることが認められる。
そして,上記説示した補足性の原則の趣旨及び一定範囲でその例外を設ける必要性を勘案すれば,上記のような取扱いには相応の合理性があるというべきである。
そこで,原告の行った上記借入れ等についてみると,原告は,その借入れ等に当たって,保護の実施機関の事前の承認を得ていないことはもとより,後記認定に係る借入れ等の内容やその使途に照らしても,これが収入認定から除外される対象となる借入れ等に当たらないことは明らかというべきである。
(3)以上によれば,原告が生活保護受給中にした借入れに係る金銭及びクレジット利用による購入物品は,前記「資産」ないし「金銭又は物品」に該当し,保護費から控除されるべき収入認定の対象となるというべきである。
3 争点B(「不実の申請その他不正な手段」の該当性)について
(1)ア証拠(乙5,11の1,14,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,Cケースワーカーは,原告の保護の開始決定がなされ,原告が保護開始決定月の保護費に係る小切手を受領するために札幌市北区役所へ来庁した際,原告に対して生活保護のしおりを交付するとともに,同しおりの「こんなときは,かならず届け出てください」の項目の「その他の臨時収入」について説明したときに,生活費が足りないからといってどこからか借りてきてはいけないとの説明をしたことが認められる。
イなお,証人Cは,上記アに沿った証言をしているが,これに対し,原告は,生活保護のしおりを受領したこともなく,平成14年2月以前に,借入金が申告すべき収入に当たるとの説明を受けたこともないと主張し,原告本人尋問においても同様の供述をしている。
この点,生活保護のしおりは,保護開始の決定通知等,保護開始の際に必ず交付する定型書類の1つであり,保護開始決定がされたときに,生活保護について説明するために最初に交付されるものであること,証人Cは,生活保護のしおりを原告に交付した経緯,場所等について具体的に述べるとともに,保護受給中は借入れをしてはいけないことを原告に説明した理由として,原告にクレジットの残債があったことなど具体的事情を挙げていることなどに照らせば,証人Cの上記証言は信用することができる。
他方,原告は,保護開始決定月の保護費に係る小切手を受領するため北区役所を訪れたこと自体は認めつつ,生活保護のしおりについては,Cケースワーカーが原告の自宅に来た際に説明を受け,同しおり自体は,Cケースワーカーが持ち帰ったと供述するなど,その供述内容は不自然であり,同しおりを受領していないとする原告の供述をにわかに信用することはできない。
また,原告自身,旅行やネックレス購入が最低限度の生活を超えるものであり,その為に借金をすることについては,ケースワーカーが認めてくれることはないものと認識していた旨を述べていることからするならば,平成14年2月以前に,保護受給中に借金をしてはいけないとの説明を受けたことはないとする原告の供述もにわかに信用できない。
(2) そして,証拠(乙7,9の2,11の1ないし3,13の1ないし5,証人C,同G)によれば,原告は,平成14年6月5日,G(旧姓○○)ケースワーカーが原告の入院している病院を面接のために訪れた際,初めて,同ケースワーカーに対し,借金があること,弁護士に相談して自己破産の手続を進めていることなどを申告したことが認められる。
また,原告の保護開始決定がされてから上記申告をするまでの間,少なくとも5回にわたり,原告の担当のケースワーカーが,原告に対し,原告の収入の変動等について確認を行っていたが,原告は,上記借金等について,担当のケースワーカーに申告することはなかった。
なお,原告の上記借金の使途としては,生活費の補充のほか,子供との旅行費用,子供の野球チームの年会費,スナックやメンズパブの飲食代等であった。
(3)アところで,保護の実施機関は,保護の適正な運営を図るため,常に,被保護者の生活状況を調査しなければならないが(生活保護法25条2項,上記実施機関の調査) のみでは,被保護者の生活状況を正確に把握することは困難であるので,同法61条は,被保護者が,収入,支出その他生計の状況について変動があったとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは,速やかに,保護の実施機関等にその旨を届け出なければならないとし,被保護者に上記事項の届出義務を課して保護の円滑な実施を図るとともに,同法78条は,不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受けさせた者があるときは保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は,その費用の全部又は一部を,その者から徴収することができるとしている。
上記各規定の趣旨に照らすならば,同法78条にいう「不実の申請その他不正な手段」とは,積極的に虚偽の事実を申告することのみならず,消極的に本来申告すべき事実を隠匿することも含まれると解するのが相当である。
イこれを本件についてみると,原告は,保護開始に当たり,生活保護のしおりの交付を受け,同しおりの「こんなときは,かならず届け出てください」の項目の「その他の臨時収入」について説明された際,生活費が足りないからといってどこからか借りてきてはいけないとの説明を受けており,原告自身も,旅行やネックレス購入が最低限度の生活を超えるものであって,その為に借金をすることは,ケースワーカーが認めてくれることはないものと認識していたこと,それにもかかわらず,原告は,保護受給中に,生活費のみならず旅行費用やスナック等での飲食代等に使うため借金をしていたことからするならば,原告は,保護受給中の上記借入れ等が許されないものであること,同借入れ等についてはケースワーカー等に届け出なければならないことを少なからず理解していたものと認められる。
そして,原告は,前記(2)のとおり,少なくとも5回にわたり,原告の担当のケースワーカーが,原告に対し,原告の収入の変動等について確認を行ったにもかかわらず,何ら上記借入れ等の事実を申告することはなく,平成14年6月5日になって,ようやく,担当のケースワーカーに対し,借金があること,弁護士に相談して自己破産の手続を進めていることなどを申告するに至っている。
これらの事情に照らすならば,原告が,上記借入れ等の事実をケースワーカーに対して申告しないまま保護を受けていたことは,本来申告すべき事実を申告せず,不正な手段により保護を受けていたものといわざるを得ない。
4 争点C(裁量権の逸脱,濫用)について
(1)生活保護法63条の費用返還及び同法77条の費用徴収は,その規定等に照らせば,保護の目的達成という見地からの配慮が強く求められるものというべきであり,その返還額及び徴収額の決定に際しては,一定程度,相手方の資力が考慮されるべきものといえる。
他方,生活保護法78条の費用徴収は,主として保護の費用を支弁した都道府県又は市町村の財政支出の適正という見地から,保護の費用を支弁した都道府県又は市町村の長が,損害追徴としての性格を有する徴収額を決定して実施するものであると解される。このような上記費用徴収の性格からするならば,保護の目的達成という見地からの配慮の要請は必ずしも強くはなく,徴収額の決定に当たっても,被保護者の資力を考慮することを要しないものといえる。
(2)上記費用徴収の性格を踏まえ,本件処分に裁量権の逸脱,濫用があるかを検討する。
原告は,前記1のとおり,平成13年1月から平成14年2月までの1年余りの間に,少なくとも357万9000円の借入れ及びクレジットを利用した物品購入をしており,その金額が多額であること,前記3のとおり,同借入れ等の使途は,生活費の補充のほか,旅行費用やスナックの飲食代等も含むものであったこと,原告自身,旅行費用等のための借入れは,ケースワーカーに相談しても許してもらえないことを認識していたこと,原告が,同借入れ等を担当のケースワーカーに申告したのは,原告が弁護士に破産手続を依頼した後の平成14年6月5日であったこと,その間,担当のケースワーカーからの収入の変動について確認されていたにもかかわらず,上記借入れ等について何ら申告しなかったことなどに照らすならば,本件処分を行うことは,やむを得ないものといわざるを得ない。そして,前記(1)のとおり,本件処分に当たっては,原告の資力を考慮する必要はなく,原告の資力の有無自体は,本件処分の裁量権の逸脱,濫用に関して直接問題とはならないというべきである。
また,北区保健福祉部長が,本件と同様の事案において,通常は本件とは異なり,借入金等相当額の保護費の徴収を行わない取扱いをしていることを認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,本件処分について,裁量権の逸脱,濫用は認められない。
(3)なお,本件処分の通知書には,徴収理由について「平成13年7月4日から平成14年まで借金を繰り返し」と記載されているが,原告が申告しなかった借入金の額が「357万9000円」となっていることからするならば,上記記載は,「平成13年1月」の誤記であると解されるところ,当該誤記をもって本件処分が違法となるということはできない。

第4 結論

よって,本件処分に原告の主張するような違法はなく,本件処分は適法というべきであり,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

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自己破産・個人再生以外にも任意整理・特定調停といった方法がありますので、個別に弁護士や司法書士に相談してみて下さい。

【相続相談ドットコム】で相続のこじれを解消

被相続人が残した財産については、遺言がない限り、相続人が協議することによって自由に分割することが出来る。
相続人間で紛争が起きた場合には、民法によって各相続人が承継する財産の割合が決められている。
財産を受け取る人を相続人、財産を残して亡くなった人を被相続人と呼び、遺された財産を相続財産または遺産と呼ぶ。
日本の法律(民法)では、ある人が亡くなったら、誰が相続人になるのかが定められている(法定相続人)。
本来、相続人となるべき相続者が、相続の開始前に既に死亡していたり、相続欠格・相続排除によって相続権を失った場合には、その相続人の子供達が被相続人の財産を相続する。
相続問題は人間関係を壊す程の神経質な問題。
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相続に強い弁護士や司法書士などの情報が満載です。

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自己破産
自己破産では、裁判所から破産の決定を受けた時点で、自分の財産(一般的な生活するのに必要なものを除く)を失う代わりに、すべての債務(借金のこと)が免除されます。
要するに、自己破産は所有している財産を失う代わりに、借金をすべて帳消しにする手続きです。 また、自己破産の手続き後に得た新たな収入や財産は本人が自由に使うことができますので、自己破産の手続き後は、ご自身の生活を十分に立て直すことができます。
一般の人たちにとって、自己破産と聞いただけで人間性まで否定されてしまい、その後は満足な社会生活ができないのではないかと考えている人も多いかもしれませんが、実際にはまったくそんなことはありません。
なぜなら、自己破産の制度は借金超過で苦しんでいる人を救済し、再び立ち直るチャンスを与えるために国が作った制度だからです。
細かいことは後述しますが、自分から言わなければ原則として会社や身内に知られることはありませんし、免責さえ受けてしまえば、生きていく上での不利益は7年ぐらいの間ローンやクレジットの利用ができなくなることぐらいです。
なお、細かい自己破産のデメリットについては、(F.自己破産の不利益について) を参照にしてください。
自己破産の簡単な手続きの流れとは、借金をどうしても返せない人(支払い不能の状態の人)が自己破産の申し立てをして破産宣告を受けた後、免責の申し立てをして免責を受ける(借金を帳消しにする)までをいいます。 そして、次の項目から自己破産の実際の手続きについて、細かい解説をさせていただきます。